まさか初日早々に、いきなりそんな難題を押しつけられるなんて。


「でっ、でも……」

「だって、俺も昨日から咲来って呼んでるし。それに、俺たちもう友達なんだから良いでしょ?」


『友達』


滝川くんの低く甘い声と嬉しい言葉に、胸がドキッと高鳴る。


「ねぇ、一回呼んでみてよ」

「うう……」


滝川くんって、声優さんみたいにすごく良い声してるなって前から密かに思っていたけど。

こんな耳元で、囁くように言われたらやばい。


「えっと。じゃあ……し、紫苑くん……」

「うん、よくできました。偉いね、咲来」


まるでご褒美みたいに、紫苑くんが私の頭を撫でてくる。


「これからはいつも紫苑って呼んでくれないと、お仕置きするからね?」


唇の端を、くいっと上げる紫苑くん。


お、お仕置きって……。紫苑くんって、そんなことを言う人だったの?


普段の教室での無口な彼からは、想像がつかなくて。私は目をぱちくりさせてしまう。


「それじゃあ、勉強始めようか。まずはどの教科からする?」

「じゃあ、数学で。昨日の授業で先生に指名されて答えられなかった問題を、ちゃんと解けるようになりたくて」

「了解。昨日の復習からね。えっと、問2は……」


夕陽の差し込む図書室の自習スペースは、私たち以外誰もいなくて。


紫苑くんと二人きりだって思うと、ドキドキする。