雪美は自室にいた。
唇に指をあて高鳴る胸をなだめているうち、いつの間にか眠りに落ちたらしい。目を覚ませば障子の向こうはもう白く明るんでいた。
「行ってきます」
いつもの団子屋に行こうと表へ出ると、門とも塀ともつかぬ境の前に蓮稀が立っていて… 雪美は思わず目を見開く。
「蓮稀!?な、なぜこんな早くから… 」
蓮稀は何か言いかけ… しかし言葉を飲み込み、こちらを見て一言だけ言葉を落とした。
「昨日は… すまぬ」
雪美は珍しくしおらしい蓮稀の態度に堪えきれず、くすりと笑った。その視線に気付いた蓮稀は顔を赤くして声を荒らげる。
「何を笑ってるんだ!」
雪美は蓮稀の隣を歩きながらいつもの感覚で、幼い頃によく話した小さな小屋に来ていた。この小屋は蓮稀があれこれと昔話や近頃のことを語ってくれた思い出の場所。
話しが尽きたその時。
「雪美… 」
蓮稀は雪美の頬にそっと手を伸ばす。昨夜の事が熱を帯びて胸に蘇る。
「だ、だだだ、だめ!// 」

雪美は慌てて顔を背ける。
「き、昨日なぜ私を蛍にしたの!」
蓮稀は表情1つ変えず淡々と答えた。
「よく似ている、俺を誘うあたりが… 」
「誘惑なんてしてません!」
強く言い返すと蓮稀は低く息をついた。
「俺がどれほど我慢していると思っている… 俺も男だ、触れられれば抱きたくもなる」
その言葉に雪美の頬は熱くなる。
「…なら、なぜ私を振ったの?」
雪美のその問いに返事はなく、蓮稀はただ静かに雪美を引き寄せそっと抱き締めた。
「蓮、稀…?」
腕の中の温もりは昔から何ひとつ変わらない。変わったのは自分の立場と、口に出来ない想いだけだった。

