着付けられた着物はまだ少し体に馴染まない。雪美は両親に言われるがまま、顔も知らない縁談相手の男の前に座り手酌で酒を注いでいた。

咲夜との縁談は子供の頃から決まっていた… だが雪美の両親は、咲夜がおすずに呼び出されていると知れば鈴香のこともあるからだろう、他の相手を探し始めた。
知らないおじさんに酒の匂い。
笑い皺の深さとどこか馴れ馴れしい視線。
" 嫌だな、この人。臭い… "
助けを求めるかのように父の方を見るが相手の男が " 可愛く育ちましたねえ " と言う。父は満足そうに微笑んでいた。
(もういいや… 早くこの場から出よ)
「そろそろ失礼いたします」
丁寧に頭を下げ部屋を出る、廊下は酷く静かで雪美は小声で呟いた。
「誰もいない、よね?いないですよねー… 」
足音を立てず畳から板間へ… 縁談中にも関わらず雪美は玄関からそっと抜け出すように外へ出た。
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蓮稀が文を受け取ったのは薄暮の刻。差出人は雪美で字は乱れていた、急ぎで書いたのだろう。
“ 来てほしい ”
その一文だけで蓮稀の胸は落ち着かなくなった。
雪美の家に着いた頃にはすっかり夜。
「 …縁談中、か」
胸の奥がきゅっと縮むような感覚。自分には関係ないと言い聞かせても誤魔化しきれない。
そんな時、外へ出てきた雪美と目が合い月灯りが雪美の顔を白く照らした。
「… 何奴!」
そう叫んだ雪美は笑って近付き蓮稀の腕に自分の腕を巻き付けた、蓮稀は月明かりの下で緩く笑った。

