その声は、誰にも向けられない懺悔のようだった。蓮稀は立ち上がり咲夜の肩に軽く手を置いた。
「…雪美は、お前を嫌ってなどいない。ただ、心が追いつていないだけだ」
咲夜は目を閉じた。蓮稀の言葉が染みてくるように胸の奥に落ちる。静かな夜気が屋敷の隙間から流れ込み、2人の間を通り抜けた。
「蓮稀… 頼みがある。雪美のこと暫く見守っていてくれないか」
蓮稀はまっすぐに咲夜を見つめその言葉に頷いた。
「任せろ、だが… いずれは咲夜自身が向き合え。雪美はお前の言葉を待っているからな」
咲夜は拳を握りしめその言葉を深く胸に刻んだ。
外に出ると夜風が少し冷たかった。
一歩歩くたびに、雪美の横顔を思い出す… すれ違ってばかりの触れられない温度が胸を締めつける。
夜の道を見つめ静かに息を吸う
雪美の心に残る誤解は蓮稀に託すだけでは消えない、すれ違ったままではいられないのは分かってる。咲夜の影が長く伸び、心の中で雪美の小さな影が重なるように見えた。
政条家の次男『咲夜』が縁談の歳になった話しは、長屋でも武家屋敷でもまるで風の噂のように広がっていた。
それと同時に、咲夜より2つ年下の雪美もまた当然の様に縁談の歳になる。

