鏡と前世と夜桜の恋


咲夜は己の弱さを隠すように笑う。人の為に動く癖に自分が傷付いても誰にも言わないそんな性分だ。

咲夜がおすずに何を背負わされているのか、どこまで巻き込まれているのか。

そして雪美をどれだけ苦しませているのか、胸の奥に熱いものが広がった。

本来呼ばれるのは自分だけだったのに…


咲夜が選んだ沈黙、雪美が抱えている誤解と傷心… そしておすずが何を企んでいるのか、全てが絡まりほどけぬ糸となって胸に沈む。

「なーにも?」

咲夜は相手に作り笑いを見せる。

蓮稀は少し前の自分を見ているようで… 手を止め、火の揺らぎの中で咲夜の目をじっと見つめた。


だが今、頻繁に呼び出されのは咲夜で… その事実は蓮稀の心を静かに責め立てる。

「…咲夜、何を1人で抱えている」

蓮稀は拳を握り薄く目を伏せた。

沈黙の中、蓮稀の力強い視線を受け止た咲夜はゆっくりと口を開いた。

「蓮稀… 少し打ち明けたいことがある」

蓮稀の眉がわずかに動く。


「おすずのことだ。俺がおすずの屋敷に通うのは陽菜も、雪美も蓮稀も何の関わりのない… 俺自身の事情でだ」

言葉を選ぶように咲夜は続ける… 声は低くしかし苦しげに震えていた。

蓮稀は暫く何も言わなかった。見たところ体に殴られた痕や痣は無い… 暴力は受けていない?安心するが実際は違った。

事実を知れば頭の良い蓮稀なら動くと考えたおすずは、それを見越して暴力は見えない場所に与えるようにしていた。

蓮稀の沈黙は責めるものではなく、咲夜の心の重さを受け止めているようで…

 「ゆきには… 誤解をさせた。自分のせいだと分かっているのに謝ることも出来ない、何ひとつ届かない… 」