鏡と前世と夜桜の恋

今日も咲夜はおすずに呼び出されていた。




おすずの使いが来るのは、1日に一度では終わらない。まるで咲夜の行き先を確かめるように、おすずは小さな紙片を届けては咲夜を屋敷へ呼びつけた。

「…すれ違いばかりだな」

帰り道、咲夜はため息を押し殺した。


あの日以来、雪美とは顔を合わせても言葉を交わせぬまま… 避けているのではなく避けられているわけでもない、かと言って直接会いに行く勇気はない。

自分が近付いたことでまた雪美に悲しい顔をさせてしまったら?そう思うと足が前に進まず、ただ胸の奥の何かが邪魔をして2人はすれ違い続けていた。






ある夜、咲夜は蓮稀を呼び出した。





灯明の火に照らされ薬草を仕分けていた蓮稀は、咲夜のただならぬ表情にすぐ気づいた。

「咲夜、また呼ばれたのか?」

本来なら呼ばれるのは自分であったはず…

おすずに夜更けにまで引き留め、言葉の探りや暴力それを受け止め続けてきたのはずっと蓮稀だった。


それがある日、急に変わり呼び出される名は蓮稀だけではなく咲夜も加わった。

そのことに気づいた時、蓮稀の胸に浮かんだのは言葉にならぬざらついた不安だった。

…何故、咲夜を。

おすずが扱う“ 執念 ”の質を知っている。自分に向けられていたあの粘つく眼差しが今、咲夜へ向かっている事実。

その重さを思えば思うほど蓮稀は落ち着かず、そして雪美の顔が浮かんだ。

雪美は咲夜しか見えていない、なのに肝心の咲夜はおすずの部屋へ呼び出され続けて雪美とすれ違うばかり… 呼び出される回数はいつの間にか自分より咲夜の方が多くなっていて… 蓮稀は思わず唇を噛んだ。