鏡と前世と夜桜の恋

翌日──。

おすずの屋敷に呼び出された咲夜… ドアを開けた瞬間、空気の密度が変わった事を悟った。

この部屋は甘ったるい香と乾いた血の気配が混ざり合い、人をじわじわと蝕むような得体の知れない“ 支配 ”そのものの匂いがした。




待ち望んだ来客におすずはゆっくりと扇子を揺らしながら言った。


「そろそろ縁談を受ける頃合いだよ。咲夜さん、まさか雪美なんて小娘を抱えたまま、陽菜との縁談を断り政条の名を汚すつもりかい?」

咲夜の心臓が冷たく沈む。

「お前の娘との縁談は断ったはずだ、俺はゆきと…」

「兄の婚約者がどうなったか知ってるだろう?」

部屋の温度がひと息で下がった。


おすずの目には笑みがあったが何の感情もなかった。

「お前に何を言われようがそこだけは譲れない。俺の気持ちは決まってる、ゆき以外考えられな… 」

おすずはにやりと笑い扇子を片手で軽く叩く。

「ふーん、そうかいそうかい… あんたが断るなら、あの小娘がどうなるかわかってるんだろうね?」


「……。」

「容姿も性格もよく似た兄弟だよ、お前も鈴香と同じ末路を雪美に辿らせたいのかい?」

「た、頼む。それだけは辞めてくれ!ゆきに手を出すな… ゆきに危害を加えないと約束するなら俺はなんだってやる、ただ縁談の話しだけは… 」

おすずの目が狂気の光で燃え、咲夜の必死な震える声が床に反響する。


額から流れる汗… おすずはゆっくりと近づき、咲夜の肩に手を置いた。指先の重みだけで咲夜の胸は押し潰されそうになる。

「そうやって小娘に必死になるんだねあんたも… まあいい。私が楽しめるなら、縁談の話しは考えてやろう」

咲夜は大きく息を吐く、心臓は破れそうなほど高鳴り手は震えている。