鏡と前世と夜桜の恋

春の気配がようやく落ち着いた昼下がり

雪美はおすずの屋敷に呼びつけられていた。





胸の奥で嫌な予感が重く沈む…

私… 何かした?もしかして牢屋敷で盗み聞きしたのバレた?赤い絨毯が敷かれた広間は、やけに静かで空気が貼りつくように重い。

雪美は膝を揃えて立ちおすずを恐る恐る見つめた。


「なんでしょう…」

おすずは扇子をぱん、と閉じ、にやりとも笑わず底のない目で雪美に言った。

「話しは簡単だよ、政条家の次男から手を引きな」

「政条家次男… って、さくの事… 」

“ 咲夜を手放せ ”という意味だと理解した瞬間、雪美の心臓は、鈍く嫌な音を響かせ音を立てて暴れ出す。



「お、おすずさん待って下さい、手を引けって… 咲夜は物じゃないんです!咲夜の気持ちは… 」

「黙りな!!!」

おすずは机を叩き、雷のような怒声を響かせた。

「金貸しの娘が!私にそんな口きくんじゃないよ!」

「で、でも… 」

「口答えするんじゃないって言ってるんだよ!!!」



怒鳴り声と同時に、鋭い音が広間に響いた。雪美の頬が、殴られた衝撃で熱を帯び、片側だけが燃えるように痛む。

「…っ!?」

突然の暴力に、頭の中が一瞬、真っ白になった。

どうして… どうして急に…
雪美の脳裏に陽菜の顔が浮かぶ。

そう言えばさくも言ってた… 今年自分は縁談の歳になると。


陽菜はさくを狙ってる。だから… 手を引けと言うの?おすずはゆっくり顔を寄せ雪美の耳元ですべるような声で言った。

「言ったねぇ?咲夜さんがどうなってもいいんだね?」

「い、嫌です!」

雪美は震える声で叫んだ。

「絶対に嫌です!私はさくと離れません!離れないって約束したんです!!!」