鏡と前世と夜桜の恋

-- 翌日。

約束通り咲夜と2人で川下りに来ると雪美が少し目を離した隙に、咲夜の隣におゆりが居た。





なんでこの子が…
やっぱり約束してたんじゃない。

「咲夜、今日こそ行くでしょー?」

雪美が目の前に居ても関係無し、おゆりは咲夜の腕に絡みつき甘い声で川下りに誘う。

何でベタベタするの…
さくもどうしてもっと嫌がらないの…

「… 嘘つき」

その声は震え、咲夜の胸がひりつく。

「ゆき!違う、コイツが… 」

「コイツ?仲良しなんだ。もう知らない!」

違う、なんでそうなるんだよ、俺が好きなのは雪美だけなのに… どうしてそうなるんだよ!!

「… さ、さくは私と行くの!」


おゆりは鼻で笑った。

「私、咲夜と約束したんだから。ゆきちゃんはいつでも行けるでしょー?」

「は?ふざけるな、俺はゆきと行…」

言い返す間もなくおゆりは咲夜の背を押し、船へと押し込んだ。

「ばいばーい、ゆきちゃん」

水面に揺れる舟の影を見つめながら
雪美は悲しそうに唇を噛んだ。


舟が離れ雪美の姿が小さくなっていく。泣きそうな表情が咲夜の心に焼きついた。

(泣くなよゆき… )

咲夜はただ、そう願う。

(また、奪われた…)

咲夜の祈りは届き、泣き出すかわりに雪美は鮎の塩焼きを買いに行った。咲夜の大好きな鮎の塩焼きをあげたら、きっと… きっと戻ってきてくれる。


川下り、咲夜は慌てて船場に戻るが雪美の姿は無く… 家に帰ってしまったんだ思い自分の家に戻ると、雪美が待っていた。手には小さく包んだ鮎の塩焼きを抱えて…

「ゆき!」

雪美は咲夜に近づき、震える声で言う。

「…もう川下りは行かない!他の女の子と行った川下りなんて絶対に嫌… 」


その嫉妬の奥には " 愛する者が突然いなくなる恐怖 ” が静かに巣食っていた。

咲夜はそんな雪美を見て、思わず苦笑しながらも腕を広げて優しく抱きしめた。

「可愛いなぁ…」

雪美は抱き締められながらようやく呼吸を整え、そして紅く頬が染まっていく。

「…これ、鮎の塩焼き。あげる」


小さな包みを差し出す雪美の手はまだ少し震えていたが咲夜の温もりがその震えをゆっくり溶かしていった。

この手が誰かに奪われぬように…
もう二度と雪美が泣かぬように…

包みを受け取り愛おしそうに微笑んだ咲夜は、大切に大切に雪美の体を覆い被さるように優しく包み込み抱きしめた。