叫んでも蓮稀の瞳は揺れない。
怒りも恐怖も見せず、ただ空っぽ。
(見下ろされているようだ…この私が!)
怒りが指先を震わせる。拳を振り下ろせば鈍い音が響く。蹴りつければ、蓮稀の身体は簡単に転がる。
痛がる素振りすら見せない。それが何よりおすずを追い詰めた。
「… 何とか言いな!!」
怒りと焦りで呼吸が乱れる。
(どうして…どうして効かないんだい。私が与える快楽も痛みも全部… 触れもしないなんて)
蓮稀はもうこちらの世界にもいない。どれだけ壊しても、どれだけ求めても、彼の心は鈴香の亡骸に張り付いたまま動こうとしない。
その事実が胸に突き刺さる棘のようだった。
「小娘を返して欲しくないのかい!」
呟いた声は怒りではなく弱さに満ちていた
その弱さが自分でも許せず更に蹴りを入れる。蓮稀が倒れ、微かに血の匂いが立ちのぼる。部屋の中に響くのはおすずの荒い呼吸だけ…
(返せ… 私から奪った気持ちを返せ… どうしてあんたは私を見ようとしないんだい)
蓮稀が静かに意識を失った時、おすずはその顔を見つめた。
その寝顔が鈴香を追うように穏やかに見えたことが、何より腹立たしく、何よりも怖かった。
この服従関係は、おすずにとって勝っているようで、負け続けている戦い… おすずはそのことに誰よりも早く気づいてしまった。

