鏡と前世と夜桜の恋


「咲夜にも… 関係ない事だ」

母が泣きそうになる。

「蓮稀… お願いだから… お願いだから “ 助けて ” って、言ってちょうだい… 」

母のその懇願にも、蓮稀はまるで心を閉じた人形のように反応しない。

「本当に大丈夫です。心配させてすみません」

言葉は丁寧なのに心に血が通っていない。


父の手が震える。

「… 蓮稀。お前の声は生きているのに、お前の目が… どこにもいない」

その呟きに座敷の空気が強く沈み

咲夜は決壊したように兄の肩を掴む。

「蓮稀、どう見ても大丈夫じゃないだろ!!その体で… どうしてそんな顔が出来るんだ、言ってくれよ… 俺達、家族だろ!!」


(鈴香… )

彼女の名前を呼ぶ声だけが蓮稀の心の中で微かに響いていた。

そして次に紡いだ言葉は、あまりにも優しく、あまりにも残酷だった。

「…本当に、大丈夫なんです」

咲夜はその瞬間、悟った。

蓮稀の“ 助けて ” はもう誰にも届かない場所に沈んでいることを…