「もう気を失ったのかい?所詮良いのは容姿だけの男… 政条の兄の方は使い物にすらならないねえ〜」
大きなため息を吐くおすず。
やがて蓮稀の身体は沈黙し
蔵の中は静寂に包まれた。
その静けさは、まるで蓮稀自身の魂をどこかに置き忘れた証のようだった。
蓮稀がおすずの屋敷から帰る度、屋敷の座敷は灯りがつけられ、咲夜と両親は息を呑むように蓮稀の身体を見つめる。
蓮稀の体は、覗く肌が痛々しいほど腫れ、青い痣と赤い爪痕が入り混じり両親は言葉を失ったまま…

母は震える手で蓮稀の手を握り、父は拳を握りしめ喉の奥で怒りを噛み殺していた。
咲夜はただ静かに蓮稀の顔色をじっと見つめていた。
「蓮稀… どうして、こんなになるまで」
咲夜の問いに淡々と答える蓮稀は、無表情で感情のない、底の見えない瞳。
「大丈夫だ」
その一言は嘘にもならない嘘だった。
母の声が震える。
「どこが大丈夫なの…?こんな…体中傷だらけで… 」
父も低い声で続ける。
「蓮稀何があった。誰にやられている。言え… 言ってくれ。助けられることは全部やる」
誰もが気付いてた、犯人はおすずだと言う事を… ただ、本人の口から助けが出ぬ限り政条家として動けない。蓮稀は少しだけ視線を逸らすように、天井の一点を見る。
「ただ転んだだけです」
その言葉に3人とも凍りついた。
咲夜は何も言わず蓮稀の手首をそっと掴む。骨の浮き出た細い手に震えはない、けれど冷たい。
「蓮稀、俺にまで嘘をつくのか?」
皮肉でも怒りでもなくただ静かに問いかけた声…
蓮稀は薄く笑った、笑みというより表情がほんの少しだけ動いた程度のもの。

