鏡と前世と夜桜の恋

-- 数日後

「ふざけんじゃないよ!どうして勃たないんだい!!!」




おすずの怒号が今日も湿った蔵の空気を震わせた。

蓮稀は、その声をどこか遠くの世界で聞いているようだった。瞳には光がなく、ただ空虚な闇だけが広がっている。

鈴香がいない世界に意味などない。感情というものは、鈴香と一緒にあの日の牢の中に置いてきた。おすずは蓮稀の肩を掴み爪が食い込むほど力を込める。

「いつもは言う事を聞いたじゃないか… どうして言うことを聞かない!!」

「… 鈴香を返してください」


おすずは怒りに震え、拳を振り下ろす。


腹、背、顔面に何度も、何度も。

蓮稀は抵抗せず、ただ静かに受け入れた。

鈴香の体を返してもらうため。そして、おすずが “ 俺の体 ”を求めるなら、これこそが最も深い復讐。

おすずの欲望が叶わない度、蓮稀の無表情に返す度、おすずは狂ったように暴れた。

「いい加減言う通りにしな!!」


蹴り上げられ、蓮稀の身体が崩れ落ちる。頬から血が滴り、床を血で濡らしていく。

-- 不思議と痛みは感じなかった。

心が凍っているからか
むしろ蓮稀にとってそれが救いだった。

痛みによって現実に繋ぎ止められているような気がして…

「… 鈴香を返してくだ、さい」


そして何より " 自分は罰を受けている… " そう信じることで、蓮稀はかろうじて呼吸を続けていられた。

「…っ」

最後の蹴りが肋に入り視界が暗く沈む。

こんな事、鈴香が望む訳がない。

そう思いながらも蓮稀は毎日おすずからの暴力に耐え続け… 蓮稀の薄れゆく意識の中に、鈴香の幻が見えた。