鏡と前世と夜桜の恋

-- その頃雪美は。

薄く日差しの差し込む牢屋敷を出た途端、胸の奥がきゅうっと痛んだ。雪美は白の桜柄の着物を握りしめるように押さえ、ただ前へ前へと走っていた。

鈴香ちゃんが牢に?

そんなこと聞いてない。
どうして誰も言ってくれなかったの

… 誰かの足音が後ろから迫ってくる。


「ゆき!ゆき!」
「雪美!雪美!」

声でわかる咲夜と蓮稀だ。

でも今は振り返れない… 振り返ったら涙が溢れそうで。

「来ないで… 嘘つき…!」

堪えきれない想いが声となり喉の奥で震え、視界がにじんで地面が揺れる。苦しさを通り越し心が痛い… 胸がむかむかする。


走りながら呼吸が乱れ、嘔吐に襲われ、膝から崩れ落ちた雪美はその場に座り込んでしまった。

胃が締めつけられこみあげるように何度も何度も吐いた。

苦しい、自分の荒い呼吸だけが響く… そんな雪美の後ろにそっと影が落ちた。

「… 雪美」
「ゆき… 」

2つの声が重なる…
驚くほど弱く優しい声。


雪美はゆっくり振り向き
涙に濡れた目で2人を交互に睨んだ。

なぜ言ってくれなかったのか
なぜ自分だけ何も知らなかったのか
苦しくて、悔しくて、悲しくて…

蓮稀と咲夜は揃って息を詰まらせるように言った。

「… ごめん」

その声がハモった瞬間
張りつめていた心がぷつりと切れた


堪えきれずしゃくりあげるように泣き出す雪美… 吐き気の名残で肩が上下する。

咲夜は息を切らし、蓮稀は険しい表情のまま立ち尽くしていた。

堪えていた感情が一気に溢れ雪美は叫ぶ。

「嘘つき!!」

喉が裂けるほどの声で2人の肩がびくりと揺れる。