鏡と前世と夜桜の恋

振り返ると雪美が " 咲夜? " と名前を呼ぶ。その声の柔らかさに胸の重さが少し和らぐ。

" 雪美だけは… 誰にも渡さない "

雪美が嬉しそうに腕を絡めてくると、不安も未来の影も全部どうでもよくなる。

ただ願うのは今、この時間だけが続けばいい… だが現実はそんな甘さだけでは済まない。

蓮稀も鈴香もこのままでは壊れる。雪美も危険に晒されるかも知れない… 咲夜の心は静かに色々決意していた。

蓮稀と鈴香をのことこのまま放ってはおけない、まとめて俺が支える、その上で雪美を “ 最優先 ” で守る。

命をかけて戦ってやる。そう思いながら咲夜は雪美の指に自分の指をそっと絡めた。


団子屋を出て、夜風の気持ち良い参道を歩いていると、鮎の塩焼きと大書きされた幟が風にはためいていた。




「おじさん、鮎の塩焼きくださいな!」

雪美はぱっと目を輝かせ店の前へ駆け寄る… そんな姿を見て " まだ食うのか? " 咲夜が呆れたように笑う。

「だって… さくも好きでしょ?」

可愛い…

焼きたての鮎を受け取った雪美は、湯気の上がる塩焼きを咲夜へ突き出す。

「食べる?」

「い、いや、ゆきが食べな。食いたかったんだろ?」

優しい言葉に雪美は嬉しそうに頷き、頬張る。本当に幸せそうに食べるよな… 咲夜にはその姿がまた堪らなく愛おしかった。


「…美味いか?」

「美味しい!」

無邪気に笑う雪美、その笑顔に胸が詰まりそうになりながらも咲夜は平然を装う。やがて2人は彼岸花の泉へ辿り着いた。