鏡と前世と夜桜の恋


政条家の門前に着いた雪美は荒い息を整える間もなく、門を勢いよく押し開け大声をあげる。




「さくーーー!出てこーい!!」

その声が庭中に響き渡った。


出てきたのは黒髪をきちんと結い上げた優雅な女性… 蓮稀と咲夜の母であった。

「ゆきちゃん… こんな夜中に慌ててどうしたの?それにまたずぶ濡れじゃない、風邪でも引いたらどうするの」

「あ、えと… 」

蓮稀と咲夜の母の声は柔らかいが、その奥に “ ただ事ではない ” と悟る鋭さがある。

雪美は一瞬で息を詰まらせ“ さくに会いに来たの " とだけ言い、強く拳を握る。

その小さな手の震えに気付いた蓮稀と咲夜の母は何も言わず静かに目を細め " ちょっと待っててね " と、咲夜を呼び、その足でそのまま手拭いを取りに行く。

「母上母上、咲夜は―? さーくー!」

「…何度も呼ばなくてもここにいる」

盆栽の手入れをし庭に居た咲夜は雪美の背後からひょいと姿を見せ、ぽんぽんと雪美の頭を軽く叩いた。その気配にぱっと振り向いた雪美は、嬉しさのあまり勢いよく咲夜に抱きつく。

「冷た… ゆき、まさか川に落ちたのか?」

「落ちたというか、突き落とされたの… 彼岸花の泉に」

しょんぼり肩を落とす雪美に咲夜は " またあいつらか " と、あの兄妹への怒りを抑え濡れた髪をそっと撫でてやる。その優しさに雪美は猫の様に目を細めて嬉しがった。

母の前だというのに雪美は咲夜に「さく、さく」と甘えっぱなしで離れない。