鏡と前世と夜桜の恋


もう少しでと思ったその時

「痛っ… 」

前を見ず走り勢い余って誰かにぶつかり雪美は尻もちをついた。

「雪美?」

顔を上げるとそこに居たのは、おすずの屋敷から帰る途中の蓮稀の姿だった。

「蓮稀お兄ちゃん助けて!また出たの… 」

そう言って雪美は蓮稀の背中に隠れる。


蓮稀は何かを察したのか眉をひとつ寄せる。後ろから現れた申又と陽菜… 息を切らせながらも申又は雪美を見ていやらしい笑みを浮かべ見ている。

「懲りないなお前… 咲夜にあれだけやられてんのに」

蓮稀が冷ややかに吐き捨てると申又は舌打ちし " 政条の息子、兄の方か " と不快そうに呟いた。


陽菜は物凄い形相で雪美を睨みつける。それを見た雪美はわざとらしく怯えた声で " 蓮稀お兄ちゃん、怖い… " と言い、蓮稀の背中に隠れる。

「申又… 咲夜に“ 雪美に近付くな ”とあれほど言われているのにまだやってるのか?陽菜、お前もだ」

蓮稀の声には静かな怒りが滲む。


その圧に気圧されたのか申又も陽菜も言い返せず黙り込む。

蓮稀は雪美を背に庇い、まるで小動物を守るようにその肩を押さえた。

「蓮稀お兄ちゃん後はよっろしくー♡」

雪美は安心したように顔を覗かせ、ベーッと舌を出せば小道を駆け抜けて行った。お嬢様らしからぬ勢いで着物の裾をたくし上げ雪美の風を切って走る姿は… まるで逃げながら笑う無邪気な子供のようだった。


「まったく懲りないのは雪美もだな… 」

申又と陽菜が逃げるようにその場を後にした後、蓮稀の呟きが小さく響いた。

おすずと約束した忌まわしい関係は、勿論申又も陽菜も今はまだ誰も知らない。


陽菜に関しては鈴香を牢に入れた罪悪感なく今度は雪美にちょっかいを出しているのかと思うと… ぶつけ先の無い怒りがただ蓮稀の心中に残った。