鏡と前世と夜桜の恋


この人には話しが通じない… 改めてそう認識し大きな溜め息を吐く雪美。

「私の旦那様になる咲夜さんはずっとずっと私だけを満たしてくれるんだから!」

狂気を孕んだような声で叫ぶ陽菜を前に、雪美はゆっくりと立ち上がり… 濡れた髪から滴る雫が、花弁の上に落ちて消える。



「咲夜が“ 物 ” ?いつから人間が “ 物 ” になったのかしら」

「何よその顔… 笑ってるの?人を馬鹿にしてるみたいで虫唾が走るのよ!」

「あら気付いた?意外と頭は回るのね」

- パシッ -

乾いた音… 陽菜の平手が雪美の頬を強く打つ、雪美は頬を押さえもせずただ静かに見つめ返した。


「言葉で勝てなくなったら今度は暴力?次は貴女の力でもない母親の “ 権力 ” に縋るのかしら。咲夜にもそうやってアピールして自分を保っていたのでしょ?そんなやり方、私からしたら虫唾が走る… 」

雪美が話していると
林の奥からもうひとつの影が現れた。

陽菜の兄、申又だった。



「… どうして貴方まで来るの」

口角を吊り上げ、その笑みには人の情など一片もなく、ただ愉しむような悪意だけが滲み出る申又。

「雪美… 可愛いなあ雪美… 」

ニヤニヤしながら名を呼ぶ申又に対し拒絶反応から背筋を身震いさせる雪美。

" 怖い… "

申又は雪美の着物の袖を掴もうとする



「さ、触らないで!」

雪美は咄嗟に申又の手を振り払い怯えた瞳で叫んだ

「さくっ!!!」

声が掠れながらも咲夜の名を呼んで駆け出す。林の小道を足元の土が跳ねるほど必死に走る… 背後から聞こえる足音… 申又の靴音と陽菜の裾が擦れる音が聞こえる。

-- 来ないで。

心臓が暴れ息が続かない。