
花が咲けばどちらからともなくここへ来て秋の風を感じながら並んで眺める。
" 触るな、見るだけだ!"
懐かしい声が耳の奥で蘇る…
まだ幼かった頃、無邪気に花へ手を伸ばそうとした雪美を慌てて止めた咲夜の姿。
その時の咲夜の焦った姿が好きで毎年わざと手を伸ばしては怒らせていた。
このやり取りはもはや2人の恒例行事のようなもの
「今年は私の方が先に着いたんだし… 触っちゃったって驚かせちゃおっかなー?」
雪美の悪戯心に火が灯る…
そして微笑みながらそんなことを考えていると背後の林ががさりと音を立てた。
咲夜が来たと雪美は笑顔で振り向く。
「さ…」
声をかけかけた雪美の目の前に現れたのは咲夜ではなかった。
1つに束ねられた長い黒髪を揺らし、怒りを顔に露わにした陽菜がそこに立っていた。
この手紙を雪美に送ったのは、咲夜じゃなく陽菜さんだったのね… 雪美は陽菜の姿を見た瞬間、確信する。
「… 陽菜さんでしたか」

「ねえ、咲夜さんが私との縁談を断ってきたの!貴方ちゃんと伝えたの?“ 陽菜の所へ行ってください ” って!」
「ええ、言いましたよ?ただ咲夜は聞いてくれませんでした」
雪美の落ち着いた声がかえって陽菜の怒りに油を注ぐ。
「貴女なんか不釣り合いよ!ただの質屋の金貸しの娘の癖に!」
「その “ ただの質屋 " から貴方のお父上は多額の金を借りておられますけど?」
淡々と告げる雪美の瞳は冷たく澄み言い返せず陽菜は唇を震わせる。
「陽菜さん。咲夜は… 貴方に渡しませんよ」
泉の紅を映した雪美の瞳がわずかに光る。その姿を見た陽菜の胸が怒りで焼けるように熱くなった。
雪美の表情が無性に癇に障る。
「咲夜さんは貴方なんかに渡さない!咲夜さんは私の物よ!ひと目見た時からそう決めてたんだから!」
叫びながら、陽菜は雪美の肩を突き飛ばす、雪美の体はよろめき赤い花の間を抜けて泉の中へと倒れ込んだ。
水飛沫が弾け、静寂が戻る
「… 咲夜さんは私の物!」

