鏡と前世と夜桜の恋

「蓮稀お兄ちゃんも最近見かけないけど… 鈴香ちゃんの様に頑張ってるんだろうなー、当主だもんね!!」

雪美の笑い声が、団子屋の軒先に柔らかく響く。だが、その響きはどこか遠く感じた。

もう、あの頃の四人には戻れないかもしれない… それでも雪美の願いだけは、どうしても否定できなかった。


「…そうだな。行けるといいな」

咲夜は静かに答えた。
優しく、けれどどこか滲む声で。

その時、外でひぐらしが鳴いた。薄闇の風が障子を揺らし2人の間をそっと通り抜けていく。

雪美はその風に目を細め、遠くの滝を思い描くように微笑んだ。咲夜はただその横顔を見つめながら胸の奥で祈っていた。


" どうかこの願いだけは届いてくれ " と。





政条家の屋敷には
今日も蓮稀の姿はなかった。

最近の彼は、どこか落ち着かない。朝は誰よりも早く出て、帰ってくるのは両親が寝静まったあと。そんな蓮稀の行動に心配し問いかけても

「牢に入っても関係ない。鈴香との祝言を進めているから忙しいんだ」


淡々とそう話し笑うだけだった。

その笑みが嘘を隠しているなんて、咲夜は思いもしなかった。

蓮稀の笑顔はいつだって穏やかで何かを抱え込んでいる時ほど優し過ぎたから…

兄の性格を1番理解しているはずなのに気付いてやれなかった。

この頃の咲夜はまだ何も知らなかった。



" 自分がどうにかしなければ "

誰も巻き込みたくない、蓮稀のこの優しさが絶望への始まりだったと誰かが気付き手を差し伸べていれば、この先に待つ地獄も違っていたのかもしれない。

身分的にはおすず一家よりも政条家が上。他者を巻き込むことを恐れ、蓮稀単体ではなく政条家一団で動いていれば…