鏡と前世と夜桜の恋


「ゆき… 」

背後から聞こえた声に振り向くと咲夜が心配そうに立っていた。

「蓮稀に雪美が呼んでると言われて… ゆき、目が赤い… 」

「そ、そんなことないよ!」

慌てて誤魔化す雪美を見た咲夜は全てを悟ったのか蓮稀に対して罪悪感を感じつつ、懐から何かを取り出し雪美に手渡した。


「じゃーん! 今日は三色団子だぞ」

差し出された団子を笑って受け取る雪美。一口食べるとほんのり甘くて、涙がこみ上げた。

「美味いか?」

「美味しい… うわああああああん!」

泣き始めた私に何も言わず頭をポンポンと撫でながら一緒に団子を食べ寄り添ってくれる咲夜。


雪美は泣きながらも団子を食べ終わり今度は咲夜の食べている団子を見つめる。

咲夜は思わず吹き出し " 食うか? " と食べかけの団子を渡す。貰った雪美は " ありがとう " と団子を受け取り嬉しそうに頬張った。

「本当、色気ねーなー」

「なによそれ!」

ムスッとしながらも気付けば笑っていた。


雪美が笑顔になれば同じように咲夜もつられて優しく笑う。

「やっと笑った。俺はゆきが笑った顔が好きだ」

その言葉に胸の奥がほんのりと温かくなった。さくはいつもそう、真っ直ぐ自分の気持ちを伝えてくれる。

気づけば空は夕焼けに染まり、蓮の花のように雪美の心にも静かな光が差していた。






-- 数日後。

朝霧の残る村はいつになく騒つき田の畦道を行き交う人々は口々に同じ名を囁く。

「聞いたか?あの政条家の兄がとうとう縁談を受けたらしいぞ」

「え、蓮稀様が?一度も話を受けなかったあの方が?」

蓮稀の縁談の噂は村中に広がり、昼前には茶屋に集まる婆様までもが話題にしていた。



蓮稀が縁談を受けた相手は、鈴香。

穏やかで品のある娘として評判の高い鈴香の名が添えられ、村の女たちは声を潜めて笑い、男たちは驚きを隠せずにいた。

「これで政条家も安泰だな」

「いやはや蓮稀様が誰かの嫁を取る日が来るとは… 」


その話は雪美の耳にも届き、庭先で洗い物をしていた手が、ふと止まる。桶の中で水が揺れ、陽の光を反射してきらめいた。

「蓮稀が鈴香ちゃんと… 」

胸の奥がきゅっと痛み、あの夕暮れの背中を思い出す… 優しい声、最後の笑み。それが “ 終わり ” を告げるものだったのだと、今更になって気付いた。


「… おめでとうございます」

口にしてみるがその声は微かに震える。