「どうしたの蓮稀?」
雪美は嬉しそうに駆け寄ると蓮稀は少し迷うように言った。
「…少し、散歩をしないか」
夢みたい、蓮稀から私を散歩に誘ってくれるなんて。何年振り?声を掛ければ反応してくれるものの… 直ぐに去ってしまうのに。雪美は喜び " うん!" と頷き蓮稀の背中を追いかけた。
少し後ろを歩いてついて行き辿り着いたのは一面に蓮の花が咲き誇る静かな蓮池、淡い夕暮れの光が水面に揺れ、風が花びらを揺らしていた。

「わぁ、綺麗! あ、鯉いるよ!」
「……。」
「… 蓮稀?」
反応のない蓮稀に違和感を感じた雪美は蓮稀の名前を呼び、首を傾げる。
蓮稀は" 近付くな " と言った日から雪美に対し必要以上に話しかけない。
はしゃぐ相手に蓮稀は穏やかに視線を落とせば雪美は恥ずかしそうに頬を赤く染める。
「雪美… お前が俺を慕っているのは気付いていた」
その言葉に雪美は黙り込む… 図星だった。次の瞬間、蓮稀の声が少し震えた。
「でも、それには答えられない。」
「え…わ、分かってるよ?それに蓮稀はお兄ちゃんって…ちゃんと思って…」
蓮稀は雪美から目を逸らさず真剣に向き合おうとしてる、自然と涙が頬を伝った。本当は薄々気付いてた " 妹みたい " って言われたあの日から… けど、そこに向き合えば私の初恋は終わる。
自然と涙が溢れる…
何で?私はさくのお嫁さんになるのに?
こんな中途半端な自分に対して悔しくて顔を逸らし隠そうとした時、背中にあたたかい温もりを感じた。
「そんな顔をさせるつもりでも、泣かせたいわけでもない。咲夜と雪美の幸せを… 心から願っている」
後ろから抱きしめられ耳元で囁かれた声は優しくてどこか遠かった。
次に気付いた時にはもうぬくもりはなく蓮稀の背中は蓮の花の向こうへと消えていった。
自分の中で割り切っていたはずなのに何でこんなに胸が騒めくの?
雪美は暫くその場に立ち尽くし風に揺れる蓮の花をただただ見つめていた。

