疲れ切った顔。
眠っているのかと思った。
けれど雪美が指を動かすと、その手を握っていた指がわずかに動いた。
雪美は、握られていないほうの手をゆっくり持ち上げた。
力が入らない。
それでも。
蓮稀の髪に触れ、そしてそっと撫でた。
蓮稀が、はっと顔を上げる。
「… 雪美!?」
次の瞬間、強く抱き締められた。
「… よかった… 」
震える声だった。
雪美には何が起きたのか分からなかった。ただ、その声を聞いていると胸が苦しくなった。
「… 身体、痛い… 」
「動くな。まだ傷が… 」
「… 喉… 乾いた… 水を… 」
蓮稀は雪美の身体を支えて起こした。
けれど雪美は、自分の力では起き上がることさえできなかった。
「… 飲めない… 」
蓮稀は水を含み、雪美へゆっくりと口移しで飲ませた。
ほんの少しずつ。

そのとき――。
襖が開いた。
「雪美!目が… 」
雪美の父だった。
そしてその光景を見た瞬間
「す、すまない!」
慌てて襖を閉めた。
「いや、違う!これは… !」
蓮稀の声が部屋に響く。
しかし雪美の父は戻ってこなかった。
蓮稀は困ったように眉を下げながら雪美をゆっくり布団へと寝かせた。
そして涙ぐんだ。
「もう戻っては来ないと思った」
雪美が蓮稀を見る。
「… え?」
「ひと月も… 目を覚まさなかったんだぞ」
ひと月。
その言葉の意味を理解するのに、雪美はしばらくかかった。
そして何かを思い出したように呟いた。
「… さくは?」
蓮稀の表情が変わった。
長い沈黙。
「… 咲夜は、遠くへ旅に出た」
「… 旅?」
「もう二度と帰って来ない旅に」
雪美の瞳から、静かに涙が落ちた。

