鏡と前世と夜桜の恋


やがて雪美まで、恥ずかしさのあまり頬を赤くして――

二人の間に、妙な沈黙が落ちた。

そして。

どちらからともなく、小さく笑った。

「…ふふ」

「…はは」

何でもない夜だった。

ただ、好きな人と一緒に過ごしていた、そんな当たり前で幸せな時間。



-- 夢の中の咲夜は、まだ生きていた。



雪美も笑っていた。

それが、何より幸せだった。

けれど――。

遠くで誰かが呼んでいる。

夢の景色が、少しずつ滲んでいく。

「… さく… 」

咲夜の声だけが、遠ざかる。

「やだ、待って… 」

咲夜が振り返る。

「やだ… 」

いつもの優しい顔で、雪美を見ていた。



そして――

その姿は、白い光の中へ消えていった。

生死の境を彷徨っていた雪美が見ていたのは、自分が失いたくなかった、幸せな日々の記憶…

愛する者との思い出だった。





それから、どれほどの時が経ったのか。

雪美には分からなかった。

ただ、暗闇の中で誰かの声を聞いた気がした。遠くから、何度も何度も自分を呼んでいる。

「ゆき… 」

その声は、どこか懐かしかった。

けれど、手を伸ばしても届かない。

身体が沈んでいく。

痛い…

苦しい…

それでも、その声だけを追いかけた。

そして――。

雪美は、目を覚ました。

薄暗い部屋、身体中が痛かった。

頭には白い布が巻かれている。

自分の手を、誰かが強く握っていた。

… 声が出ない。

喉が焼けるように乾いていた。

雪美がゆっくりと隣を見る。

そこにいたのは… 蓮稀だった。