その言葉にゆりねは息をのむ。
雪美は涙をぬぐいながら続けた。
「さくが私と逃げる為に申又の目を… 駄目よ、さくに甘えて私が逃げれば、またさくは罪人になってしまう」
「雪美様… 」
「あの時も本当はすっごく行きたかった… でも、私が動… さ、が… 」
声が震え、最後まで言葉にならない。
ゆりねは胸が締めつけられる…
二人とも同じように苦しみ、同じように相手を守ろうとしていた。だからこそこんなにも長い時間、すれ違ってしまったのだ。
「申又様は、傷が癒えず療養中… 監視も厳しくありません、咲夜様が待っています」
ゆりねの言葉を聞き、雪美は走り出した。
夕暮れの京の町を駆け抜ける。
息が切れても、足がもつれても止まらない。あの日、行きたくても行けなかった場所へ… 会えなかった、大切な人のもとへ。
風が頬を撫でる。
木々の葉が揺れる。
「さく、さく、さく… 」
雪美は息を切らせながら、渡月橋の見える鴨川へと向かった。
夕暮れの鴨川。
西の空は茜色から群青へと溶け始め、渡月橋の影が静かな川面へ長く伸びていた。
雪美は息を整えることも忘れ、ただ川を見つめていた。
流れていく水は、あの日と何ひとつ変わらない。
それなのに、自分だけが、あの日から時を止めたまま生きてきたようだった。

