数時間後…
京へ着くと西日が町並みを橙色に染め始めていた。ゆりねは人目を避けながら申又の屋敷近くで身を潜め、息をひそめて待つ。
どうか雪美様が出てきますように――。
祈るような気持ちで待ち続けていると、屋敷の門が静かに開き、黒い着物をまとった雪美が、小さな籠を抱えて外へ出て来た。

その姿は以前より少し痩せ、笑顔もなく、どこか儚げだった。
「… 雪美様」
小さく呼ぶと、雪美は驚いたように振り返る。
「… ゆりねさん」
ゆりねは急いで駆け寄ると、周囲を見回し、誰もいないことを確かめてから声を潜めた。
「咲夜様からお伝えしなければならないことがあります… 」
その一言で、雪美の表情が変わる。
止まっていた時間が、一気に動き出したようだった。
「…さくが?」
震える声だった。
「咲夜様は屋敷を出られ、渡月橋の見える鴨川で雪美様を待っていますよ」
その言葉を聞いた瞬間、雪美は持っている籠を落とした。
中から野菜が転がる。
そんなことに気を留める余裕もなく涙を流しながら何度も愛おしい男の名前を呟いた。
「さく、さく、ごめんなさい… 」
雪美は着物の裾を握りしめる。
「今度こそ… さくに会いに行く… 」
雪美の言葉にゆりねは静かに微笑む。
「咲夜様は雪美様を信じておられましたよ」
「 " ゆきは俺との約束を破る人じゃない、きっと理由があったんだ " そう、おっしゃっていました」
雪美の瞳が大きく揺れる。
堪えていた涙が、ぽろりと頬を伝った。
「… やっぱり」
雪美は唇を噛み締めながら呟く。
「… なかなか見つからないの、申又の隠す汚名の徹底的な証拠が… 」

