数日が過ぎた。
あの日を境に、咲夜は雪美とは二度と会わないと決めていた。会えば雪美の身に危険が及ぶ。
それだけは、何としてでも避けなければならない。
何より雪美は申又のことを…
陽菜と婚姻を結んだからと言って胸の奥に巣食う想いまでは、切り捨てられなかった。
雪美は無事だろうか。
ちゃんと食べてるだろうか。
笑えてるだろうか。
その答えを知る術は、ゆりねしかいない。
咲夜は誰にも悟られぬようゆりねと会い、雪美の近況だけ聞いていた。

「咲夜様、雪美様は今日も元気でした」
その一言を聞くだけで、胸を締め付けていた重石が少しだけ軽くなる。
… よかった。
ゆきが幸せなら、それでいい。
ゆきが、生きていてくれるなら。
それだけで十分だ。
想いを押し殺し、咲夜はゆりねと別れると、帰り道に馴染みの鮎の塩焼き屋へ立ち寄った。
炭火で焼かれた鮎の香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
昔から変わらぬ匂い…
変わらぬ景色…
このひとときだけが、心を静かにしてくれる… 包みを受け取り屋敷へ戻る。
門をくぐった瞬間だった。
庭の花壇で誰かが屈み込んでいる。

「おかえりなさい、咲夜さん❣️」
陽菜だった。
珍しく穏やかな笑み… その笑顔を見た瞬間、咲夜の胸に小さな違和感が走る。
「ああ」
短く返事をしながら陽菜に近付く。
「花の手入れをしているのか?」
「ええ」
陽菜は花を撫でるように指先で触れる。
「花って綺麗だよね、咲夜さんみたい。綺麗なあまり色んな虫が寄って来る… 」
その声音は優しい… だが、
「私の花に寄って来る虫は退治しなきゃ」

