「…俺ゆきを探してくる!!」
「待て咲夜、心当たりがある」
心配し今にも駆け出そうとする咲夜の腕を掴んだのは蓮稀。静かな声音… だがその奥には確信めいた響きがあった。
「どこだよ蓮稀、早く教えろよ!!」
咲夜は堪えきれず蓮稀の胸ぐらを掴む… 蓮稀は一瞬視線を下げ、淡々と告げる。
「鈴香とここに来る途中、慌ててある場所に走って行く陽菜を見た、恐らく雪美と関係が… 」
「…あ、そう言えば居たあの子!」
鈴香が突然思い出したかのように大声を上げ、言葉の途中の蓮稀を残して駆け出した。
「待っててゆきちゃん!!」
咲夜は慌てて蓮稀の胸ぐらを放し鈴香の後を追う。
「鈴香待て!俺にも場所を教えろ!!」
人混みの中を2人の足音が響き、夏の陽射しの下、塩焼きの香り、団子屋、色んな店が遠ざかっていく。
その先には滝へ続く山道、その外れにまだ見ぬ雪美の姿が待っていた。
滝行きの始まりはこうして少しの不安と焦燥の中で幕を開けたのだった。
-- その頃、雪美は。
陽菜の話を半信半疑で聞きながら、雪美は蓮稀との思い出の場所へと足を運び踏み固められた獣道を進むが誰もいなかった。

「…ほらやっぱり嘘じゃん」
独り言のように呟いた声が夏の空気の中に溶ける。
せっかく来たのだから雪美はかつて蓮稀と何度も訪れたこの場所を見渡す。
「この場所は変わらず綺麗…」
今日は雲ひとつない快晴。光に揺れる水面はまるでガラスを溶かしたように透き通っている。雪美は頬を綻ばせ、川辺にしゃがみ込んだ。
「蓮稀にも見せてあげたかったなー」
時間を忘れて見入るその背に静かに影が忍び寄る… 息を潜め、足音ひとつ立てぬその影の存在に雪美は気づかない。
「あ、魚!!」
水面を跳ねた銀の光に雪美の瞳が輝き“ さくの好きな鮎かも… ”そう思った瞬間。
――ドンッ!!
背後からの強い衝撃に雪美の身体は冷たい川へと叩きつけられた。

「待って、やだ、足、届かな… 」
冷たさと恐怖が身体を締めつける。必死にもがく雪美の姿を岸辺に立つ陽菜は笑って見下ろしていた。

