-- 咲夜が塩焼きを堪能している頃
「行って来まーす!」
今日はさくと蓮稀だけじゃなく大好きな鈴香ちゃんにも会える。雪美はるんるん気分で家を出て歩き慣れた川の横を鼻歌を歌いながら歩く。

「… 憎らしいほどご機嫌ね」
突然、声を掛けて来たのは明らかに不機嫌そうな表情の陽菜だった。
腕を組み、眉を寄せまるで目の前の幸福が気に入らないとでも言いたげな顔。
「そう見えます?これからさく達と出掛けるんで、そーゆう陽菜さんは見た感じご機嫌ななめなのかしら?」
雪美は一瞬たじろぎながらもにこりと微笑み言い返した。
「貴女に関係ないでしょ、ただの金貸し屋の娘のくせに!」
陽菜の声は刃のように冷たくその瞳の奥に嫉妬とも焦りともつかない色が宿る。
" ただの金貸しの娘のくせに "
その言葉が空気を裂き、川のせせらぎが一瞬止まったように感じる。
雪美の表情から笑顔がゆるやかに消えたと思うと胸の奥にじんと痛みが走った。
それでも雪美は背筋を伸ばして言った。
「… 出自で人を測るなんて良くないですよ陽菜さん。それに貴女のお父上、藤川さんはそんな“ 金貸し ”の家に助けられているみたいですけど?」
雪美の言葉は静かでどこか澄んだ響きを持っていた。だがその一言は、陽菜の胸に鋭く突き刺さる。
「なっ… 」
陽菜は目を見開き悔しそうに唇を噛む。
顔が見る見るうちに赤くなり、何かを言い返そうと口を開きかけるが声にならず、陽菜はただ、ぎゅっと拳を握りしめ、雪美を睨みつけることしかできなかった。
川風が二人の間を抜け葉を揺らしその音だけが沈黙の中に響く。
(まただ… )
雪美は心の中でため息をついた。
陽菜はいつもこう。気に入らない事があると、決まって「金貸し屋の娘のくせに」と吐き捨てる。本当は何を言いたいのか。どうしてそんなに私を敵に回すのか。
(… 咲夜のこと、だよね)
心のどこかで分かっている。けれど、それを口に出すことだけはしたくなかった。
「行きますね遅れちゃうので。まだ何か?」
微笑みを取り戻し歩き出す雪美。背中に陽菜の刺すような視線を感じながらも、足を止めず… 陽菜はその場に取り残されたまま、ただ唇を震わせて呟いた。
「そ、そう!ま、待って!!私は咲夜さんからの伝言を… 」
突然、陽菜が声を張り上げた。
先ほどまでの強気な態度とは裏腹に言葉がどこかたどたどしく…
「か、感謝してよねっ!咲夜さんのお願いだから仕方なく、届けに来て “ あげた " んだから!」
雪美は半信半疑のまま少し身を乗り出す。
「さくからの伝言ですか?」
「そ、そうよ!」
陽菜の声はどこか裏返りまるで嘘を隠す子供…

