鏡と前世と夜桜の恋

一方、蓮稀と雪美は…

「鈴香ちゃんに用事って何かあったの?」

「頼まれごとをされていてね」

雪美が横を歩く蓮稀に問いかける。蓮稀は短く答えると歩調を緩めて雪美に合わせた。

ほどなくして2人は鈴香の屋敷に到着

門を開けるとちょうど屋敷から出てきた鈴香が、ぱっと笑顔を見せた。


「蓮稀にゆきちゃんいらっしゃい」

鈴香は両手を広げて迎え入れる。鈴香は昔から雪美を妹のように可愛がっていて、その眼差しには深い愛情がにじんでいた。

「… ねえ、明日さくも誘ってみんなで滝を見に行きましょ!」

思いついたかのように雪美は鈴香と蓮稀に甘えながら突然声を弾ませる。


「滝だと?まだ暑いのに…」

蓮稀が眉間に皺を寄せ答えると、雪美は胸を張って答える。

「だから行くの!青々とした木々達綺麗だろうし、滝の水しぶきも気持ちいいはず!」

雪美の勢いに鈴香は微笑む

「ふふっ、仕方ないわね。ゆきちゃんのお願いだもの。明日の午の刻いつもの場所で待ち合わせね」


蓮稀が口を開く前に2人の間で約束はあっという間に取り決められた。蓮稀はそのやり取りをただ見守るしかなく…

帰り道、雪美は上機嫌で鼻歌を歌う。

「明日楽しみ!」

その声は夜風に乗って響き雪美の頬は期待に染まっていた。一方、蓮稀の胸には小さなざらつきが残る… 咲夜は大丈夫なんだろうか。


雪美を家まで送り届けて家に帰った蓮稀は、咲夜のもとに静かに歩み寄った。

「…咲夜」

その声に顔を上げた咲夜は、すぐに兄の表情からただならぬものを感じ取り眉をひそめながら問いかけた。

「なんだよ。わざわざ改まって… 」

蓮稀は一拍置き、淡々と告げた。


「明日、雪美と鈴香と共に滝へ行くことになった。待ち合わせは午の刻だ」

「滝?そんな話し聞いてない!」

声を荒げる弟に蓮稀は微動だにせず言葉を続ける。

「雪美が鈴香に提案しその場で決まったこと… そう怒るな」

雪美の想いに気付いてるからこそ… 咲夜の胸の奥に熱い嫉妬がじわりと広がる。


蓮稀はそれを見透かすような目で静かに笑った。

「だからお前も来いと言うことだ。但し、雪美を困らせぬこと」

咲夜は奥歯を噛みしめ俯いた。やがて拳を握りしめ顔を上げる。

「行く… ゆきを放ってなんかおけない」

蓮稀は短く頷き背を向ける、その歩みはゆるぎなくその言葉を試すかのように。