鏡と前世と夜桜の恋


翌日…

おすずの家では身内だけの宴が開かれた。

長机の上に並ぶ色とりどりのご馳走… 湯気を立てる椀、照りのある焼き魚、甘い香りの漂う菓子。

「今日は陽菜のお祝いだよ沢山食べな!」

「やっと咲夜さんは私の物❣️」

おすず、藤川、陽菜。3人は机を囲んで座っていた。そこに咲夜の椅子はない。


「咲夜さん、あんたの飯はこっちだよ」

おすずに指差された先は、使用人達の並ぶ端の席だった。主の席でも、客の席でもない。

" まだ残飯や腐ったものを出されないだけ、マシか… "

そう思うことで自分を保ちながら咲夜は背筋を伸ばし、何事もなかったかのように使用人達の隣に腰を下ろす。


表向きは、隠しているが陽菜との婚姻… だが実際の咲夜の立場は、おすずと陽菜 " 両方の相手 ”

おすずと藤川は、世間体だけで繋がれた仮面夫婦。その歪みのしわ寄せが、すべて咲夜に向けられていた。

名を与えられぬ一夫多妻…

命令を拒む拒絶、許されぬ拒絶、選ぶ権利など咲夜に最初からなかった。



-- それでも

鎖は見えないものに変わり、食事はまともになり、外出も許されるようになった。

幸い、婚姻の話もまだ公にされていない。咲夜は引き止められることのない屋敷を出て、そのまま京へ向かう…

目的地は決まっている
以前、雪美を探し見かけた団子屋。

湯気の立つみたらし団子を小さな口で頬張る雪美は " 美味しい!" と目を細める、その横顔。





声を掛けることはしない… 近付くことも、触れることも出来ない。

ただ、見るだけ

生きていることを。
笑っていることを。

変わらぬ日常の中に雪美がいることを。
それだけで胸が詰まり同時に救われる。