表向き咲夜は潔白となった。
だがそれは、赦されたのではなく、ただ形を変えて縛られただけ。
裏では静かに、確実に、咲夜と陽菜の婚姻の支度が進められていた。祝いの色は抑えられ、噂に立たぬよう人目を避け、まるで罪を隠すかのように…
婚姻を結ぶとはいえ
それは心を結ぶものではない。
名と肩書きだけの関係。夫婦という " 器 " を被せられた、空の契り。
だが咲夜にとってそれで十分だった。
肩書きさえ我慢すれば、身は自由。どこに居ようと、何をしようと、誰にも咎められはしない。
夜更け、障子越しに差す行灯の淡い光の中で、咲夜は静かに目を伏せる…
この自由の身… いや、自由に見せかけたこの猶予こそが何よりの武器。
(さて… )
胸の奥で、小さく笑う。
この仮初の平穏の裏で、誰も気付かぬ密かな策が、既に咲夜の中で組み上げられつつあった。無罪となった咲夜は、ただ生き延びただけでは終わらない。
それを知る者は、まだ誰もいない。
婚姻を理由としてその日のうちに、咲夜は政条家からおすずの屋敷へ連れて行かれた。

無駄に派手な彫刻、意味もなく広い廊下、金と権利がそのまま形になったような屋敷… 通い慣れた場所ではある。だが、これまで迎え入れられていたのは牢であり、屋敷ではなかった。
-- ただ、檻が変わっただけ。

