「… ふざけるな」
するとおすずは小首を傾げ、咲夜に対して思いついたかのように言った。
「… 牢が嫌ならさっきも咲夜さんの両親に話していた通り陽菜と婚姻を結ぶんだね、その為に今日はこの子を連れて来た。愛娘の頼みじゃ仕方ない… そうすればお前を晴れて無罪にしてやっても構わないよ」
「咲夜さんは私の物だから。誰にもあげない!私が可哀想な咲夜さんを助けてあげる❣️」
一瞬、世界が止まり悔しさが喉を焼いた。
拒めば、また牢。
拒めば、人生はそこで終わる。
―― だが。
無罪になれば動ける、外にも出られる。
ゆきに会えるかもしれない。
咲夜は目を伏せ、歯を噛み締めた。
「… 分かった」
その一言は、あまりにも重かった。
「さ、咲夜… !?」
おどおどする母の声を打ち消し咲夜は決意の意を告げた
「婚約を、受ける」
陽菜は満足げに微笑み、おすずは勝利を確信したように頷いた。
こうして表向きは咲夜の無罪が宣言され、裏では咲夜と陽菜の婚姻が決まった。
重罪犯だったはずの男が無罪を勝ち取った。
何をどうすればそうなったのか。
その理は誰も分からぬまま。噂好きな者達は口々に憶測を並べ、一躍、政条家・次男の『咲夜』は、気付けばひと目置かれる存在となっていた。
疑いと蔑みの視線は静まり… 人々から代わりに向けられたのは慎重な敬意。
噂は尾ひれを付けて広がり、咲夜の名は密やかに、しかし確かに重みを帯びてゆく。
咲夜自身は何も語らず、ただ背筋を伸ばして歩いた。その沈黙こそが、更に人々の想像を決定づけていく…
誰1人として無罪になった理由が『陽菜との婚姻』だとは思いもしなかった。

