鏡と前世と夜桜の恋


-- 夜明け前。

まだ鶏も鳴かぬ刻、政条家の座敷に2人の息子の父はいた。政条家当主の座に、父は静かに腰を下ろした。

その背は動かぬ山のようで、誰1人息を乱せぬ。

「… 動くぞ」

朝の声は低く逃げ道を与えぬ響きだった。


「まだ調べろ。隠された経緯も、人の裏も。止める者があれば、踏み越えろ。政条の名を使え。遠慮は要らぬ」

誰も返事をしない。
それが命令を受けた証だった。

父は外の薄明を一瞥する。

「まだ、朝は終わっていない」

その言葉の意味を問う者はいない。
だが皆がその意味を理解した。






消えたはずのもの、奪われたはずのものは、まだ完全には沈んでいない。

朝靄の中、政条家は静かに歩き出した。