鏡と前世と夜桜の恋


生きる気力は日に日に擦り切れ、呼吸をすることすら重荷になっていく。

" もう、殺してくれ " その願いを咲夜は何度、闇に向かって吐き出しただろう。

「…もう、無理だ… ゆき… ごめん…」

視線の先には、まだそのまま残された鈴香のロープ… 誰も片付けようともしなかった、死の痕跡。


咲夜は、ふらつく手を伸ばし鈴香が辿った道を、今度は自分が逝けばいい… そう思った。

首に掛け、息を詰める。

ーー だが。

一度使われ、乱雑に放られたそのロープは、もはや命を預けるほどの強さを持っておらず、嫌な音を立ててほどけた。

「…なん、で…だよ… 」


床に崩れ落ちた咲夜の喉からかすれた声が漏れる。

死のうとしても、死ねない。
死なせても、もらえない。

生きることも、終わらせることも許されぬこの場所で、咲夜はただおすず一家の人形として“生かされ続ける” だけ。

それは牢ではなく
救いのない地獄そのものだった。







-- その頃雪美は

「咲夜は来ぬ。いい加減に諦めよ!」

申又の声が牢の中に叩きつけられる。





" … さく。"

名を呼ぶ声は喉を越えなかった。胸の奥、形をなぞるだけで精一杯だった。申又は暫く雪美を見下ろしていたが、やがて興を失ったように鼻で笑う。

「その泣きそうな面でまだ待つつもりか」

雪美はゆっくりと顔を上げた。

「…待ちます」

声は掠れていたが、言葉は折れていない。

「約束したの。咲夜は… 必ず、迎えに来る」

申又の目が一瞬、鋭く細まった。

「あやつは、もう… 」

「来ます」

遮るように落ちた声は、思いのほか静かだった。泣きも叫びもせず、ただそこに在る声。