鏡と前世と夜桜の恋


畳に滴る鮮やかな赤。

「俺の話が聞こえぬなら… これは要らぬよな?」

申又の声がどこか遠くで響いていた。

え…?
いま、何が…

雪美は震える指で自分の左耳に触れる… 触れてあるはずの感触がそこには無く

痛い、悔しい… 喉の奥まで込み上げる叫びを必死で飲み込む。


床に落ちたそれを見た瞬間、全てを失いそうで目を逸らした。

「この俺に何か言いたそうだな?」

「…っ 」

泣き喚きたい衝動を堪える

雪美はただ、咲夜から貰ったかんざしを両手で強く強く握りしめた。









-- その同刻。

政条家の屋敷は、突如として騒然となった。おすずの屋敷から届いた一通の知らせが静かな日常を容赦なく引き裂いた。




長男・蓮稀、死亡。

更に続けられた言葉はあまりにも残酷だった。犯人は、鈴香を殺しおすずと陽菜にまで刃を向けた狂人。

名指しされたのは… 弟の、咲夜。


「…咲夜が、蓮稀を…?」

父は声を失い母は震える手で胸元を押さえた。

「あの子がそんなことをするはずがない!!」

政条家の両親は何度も無実を訴えた。だが既に咲夜は牢に入れられその声が届くことはなく…

面会は許されず、文一通すら " 罪人の家系の物は受け取れぬ " そう言い突き返された。


何も出来ぬまま両親は頭を抱えるしかなく、咲夜が監禁されているとも知らず…

そこへ、静かに屋敷へ通された1人の女が深く頭を垂れる。





「… ご主人様」

その声は低くよく抑えられていた。

「蓮稀様のご遺体を発見しました。教会にて… 鈴香様と寄り添うようにして亡くなられておられました」