鏡と前世と夜桜の恋





どれほどの時間ここに縫い止められていたのだろう… 時は進んでいるはずなのに涙は止まることを忘れていた。

咲夜は蓮稀の亡骸を背負い、砕けかけた足を引きずり牢屋敷を出る。

一歩踏み出すたび骨が擦れるような鈍い音が体の奥で鳴る…

その途中、先程通り過ぎた牢が妙に視界に引っかかった。


… 嫌な予感は基本正しい。

「…アイツらは人の命を何だと思ってんだ」

格子の内側には鈴香の体があった。腐敗途中で時間を止められたまま放置されていた。

咲夜は言葉を失い鈴香の体を抱き上げた。蓮稀と鈴香、2つの重みが背と腕にのしかかる。それは命の重さではなく踏みにじられた証だった。


怒りと悔しさ
吐き気を伴う悲しみ…

足の痛みなどもはやどうでも良かった。それよりも心の奥が音を立てて崩れていく。

ゆきのことまで閉じ込めて殺そうとした。ゆきを抱いていいのは俺だけなのに。初めても、尊厳も、あの一家に奪われた。

" 俺の大切なものは全て壊される "








咲夜が辿り着いたのは、色硝子が光を落とす教会だった。赤、青、黄色、紫… 美しさがあまりにも残酷に場違いだった。





咲夜は2人の体を横たえ着物を羽織らせる。死後にすら与えられなかった『人としての形』を今更整えるように…

「どうして、この2人が… 」


咲夜の声は掠れ、怒りで体が震える。

咲夜は泣きながら2人を椅子に寄り添わせる、本当はここで互いに愛を誓い合っただろう教会で…

許さない絶対に。
あの一家の行いだけは、許さない。

人を殺しに行くのではない。自分の欲だけで人を人として扱わぬ者達を… この世から消してやる。

咲夜は鬼の顔でおすずの屋敷へ向かった。