その頃、薄暗い牢の奥ではもはや人の尊厳など残されていなかった。

「勃たないのなら、お前はもう必要ないねえ〜」
おすずの嘲るような声、蓮稀は意識あるものの身体は言うことをきかない。
更に小刀が振り下ろされる。
それがどこに向けられたか、何を奪ったか… もう語る必要がないほどに。
勃つ気配のない… いや、勃つはずがない蓮稀自身を握り舌打ちしたおすずは " こんなものちょん切ってやる " と、笑いながら蓮稀自身を小刀で切り落とした。
痛い、痛い痛い…
無反応だった蓮稀も更なる激痛に耐えきれず獣のような声が漏れその場でもがき苦しみ口から泡を吹き身体が大きく痙攣する。
「あー、うるさいねえ」
おすずは舌打ちし真っ赤に染まる濡れた小刀を払った。
「… 蓮稀!!」
牢の扉が開き咲夜が駆け込んだ瞬間、おすずは立ち上がり嗤った。
「蓮稀様はあんたの代わりに死ぬんだってさ。よかったねえ〜 生き残れて」
捨て台詞を残し
おすずの足音は遠ざかっていった。

「…う、嘘だろ」
咲夜は崩れ落ちるように蓮稀の元へ駆け寄った。
「蓮稀…蓮稀…!」
名を呼ぶ度、返事は弱くなっていく。
「…る…だよ…」
「何だ、蓮稀、何て言った…?」
掠れた声が最後の力を振り絞る。
「雪美と… 生き、ろ… 俺は… 鈴香が… 待って…」
言葉はそこで途切れた。
「蓮稀…」
返事はない。腕の中の蓮稀の体は、ゆっくりと温もりを失っていく。
「何で…」
何度問いかけても答えは返らない。
「何でお前が死ななきゃいけない…」
咲夜は冷えゆく体を抱き締め、声が枯れるまで泣き続けた。外では夜明けの鐘が鳴っていた。まるでこの世の無情を告げるかのように。

