「… 鈴香」
その名を聞いた瞬間おすずの理性は完全に崩れた。
「まだ呼ぶのかい!!小娘の名を!!」
狂ったような怒号。
「お前は私のものだ。死んでも生まれ変わっても…!」
容赦なく蓮稀に小刀が再び振るわれる。
この女はどうしてここまで自分よがりなんだろうか… 俺は人形じゃない、無理矢理心まで縛り付ける事など出来やしないのに。
「なんだいその目は!!逃がさない… お前はもう永遠に私のものだよ!!!」
… 鈴香、1人で逝かせてごめんな。
蓮稀の指先に走った鋭痛と共に、左手の薬指が床へ転がった。
… それでも
蓮稀の心は絶対におすずのものにはならなかった。服従しなかった。人の心は斬れない、どれほど縛ろうと壊そうと。
薄闇の牢、鉄の様な嫌なに匂いが充満する中、蓮稀はただ静かに目を閉じた。鈴香に再び会うその刻を思いながら。
-- その頃、咲夜と雪美は鉄道場にいた。

鉄道場は人影もまばらで冷たい風が吹き抜ける。
「…さく、本当に一緒に行かないの?」
咲夜は雪美の右足に巻いた晒しの具合を確かめ、静かに頷いた。
「俺はまだ行けない… 残った蓮稀が気掛かりだ。先に京へ行け、向こうで待っててくれ」
「さく… 」
「必ず追う、昔2人で旅したあの桜の下で落ち合おう… 約束だ」
涙を堪えきれぬ雪美を抱き寄せ咲夜は何度もその頭を撫でた。汽笛が鳴り列車が動き出す。
「… 約束だからね!?」
その声に咲夜は力強く頷く。
「勿論。必ず行くから待っててくれ、蓮稀を助けて必ず追いかける」
どうか雪美だけは…
咲夜の気持ちも蓮稀とまた同じだった。雪美だけは何も無く平和に過ごしてほしい。
咲夜は雪美を乗せた列車が見えなくなるまで見送り、踵を返した。
「… 蓮稀頼むから無事でいてくれ」
咲夜は右足の痛みを噛み殺し引き摺りながら蓮稀の残る牢屋敷へと走った。

