-- その頃
蓮稀の身を案じながらも雪美は牢屋敷を抜け出し、向かった先はただ一つ… 咲夜が捕えられている町の奉行所。
高い門の前に立つ警官の男を見つけると、雪美は一瞬だけ息を整え、上目遣いで一歩近づいた。
「… 入れて下さりませんか?」
普段の雪美から想像が付かぬほどの甘く猫なで声。
袖口に指を掛け寄り添うように身を寄せ、撫でるように男の腕へ触れる、それだけで十分だった。
「… す、すぐ戻って来いよ//」
顔を赤らめた男は、周囲を気にしながら門を開けた。
(男なんて下心を煽ればちょろい)
門をくぐる瞬間、雪美は小さく舌を出す。
「… べー」
こうして町奉行所への侵入は呆気なく成功。
屋敷の影に身を潜め、雪美は蓮稀の上着の懐から小さなナイフを取り出す。周囲を警戒しながら厠へと入りそっと戸を閉めた。
「… さく、必ず私が助けるから」
結っていた長い髪をほどき、手にしたナイフを迷いなく走らせる。
-- ばっさり。

尻まで届いていた黒髪は床へ落ち、短く揃えられた。蓮稀の着物を纏った姿は小柄な少年そのもの…
覚悟を決め、雪美は咲夜が囚われている場所へ向かう。
見張りの男の前で足を止め、顔を伏せたまま低い声を作った。
「… 政条咲夜の兄だ」
一瞬の沈黙。
「せ、政条… え?は、蓮稀様!?」
男は慌て、恐縮し雪美に疑うことなく深く頭を下げる。
「ご、ご案内いたします!」
道を開けられ牢の前まで案内される。
「ご苦労」
低く言うと、男は再び頭を下げその場を離れた。
(蓮稀の羽織と、政条家の家紋のおかげね)
安堵しつつ牢を覗き込んだその瞬間…
「… え、は?ゆき…!?」

