柔らかい声とは裏腹にその目は冷たく、まるで獲物を見るような視線だった。
蓮稀は何も言わず立ったまま、おすずを見据える。恐れを見せるつもりはなかった守るものは " 外に " あるから。
「小娘を逃がしたのはお前だね」
囁くような声… 責める気配はなく蓮稀が自ら牢に来たことに喜んでいた。
「…気付いてたのなら止めればよかっただろ」
低く言うとおすずは小さく笑った。
「いいさ逃げたって、あの小娘はすぐに捕まる」
その言葉に胸の奥がひどく軋んだ。それでも蓮稀は、視線を逸らさない。
捕まえさせない、せめて時間だけは稼ぐ。それが今の自分に残された役目。
おすずは一歩、近づく。灯りに照らされた顔は美しいほど歪んでいた。
「哀れな男だねぇ。誰にも選ばれず最後は囮」
-- 違う。
選ばれなかったんじゃない。
選ばなかっただけだ。
蓮稀は胸の奥でそう言い返す。
声には出さず。
(咲夜… 雪美… )
ほんの一瞬、2人の顔が脳裏をよぎる。
" 笑う雪美とその隣に立つ咲夜 "
— これでよかった。
次の瞬間、背後で荒々しい足音が響いた。男たちの声と縄の擦れる音。蓮稀はゆっくりと両手を広げ、逃げる素振りすら見せなかった。
捕らえられる直前、蓮稀は小さく息を吐き小声で呟いた。
「…無事でいろよ」
誰にも届かない、一言を残して。
縄が腕に食い込み、蓮稀の体は乱暴に引き倒された。土の冷たさが着物越しに滲み呼吸が一瞬詰まる。
だが——
「その辺でいいよ」
おすずの声が落ちると、男たちの手が止まった。おすずはゆっくりと歩み寄り、蓮稀の前にしゃがみ込む。
「…ねえ蓮稀様」
名を呼ぶ声は驚くほど甘い。

