「ちよっと叩かないでよ!」
薄暗い牢の中で、雪美の声が湿った空気を震わせた。
「… そんなにメソメソしてたら咲夜に笑われるぞ」
雪美に脛を蹴り飛ばされ痛がる姿を見せるも " いつもの雪美に戻ったな " と、蓮稀は安心し口元を緩めた。
「… 蓮稀も一緒に行くのよ!!」
必死にすがるような声に蓮稀は一瞬だけ目を伏せる。
「うん、行くさ。行くから俺も」
そう答え、蓮稀は雪美の背に手を添え、廊下へ押し出すようにして一歩踏み出させた、その刹那…
蓮稀は自分だけ牢の中へ残り、重たい扉を内側から叩き閉めた。
「…やだ、なんで!」
雪美は慌てて振り返り扉に縋りつく。外からは決して開かぬよう蓮稀の腕が扉を押さえていた。
「早く行け。見つからぬうちに!」
格子越しに向けられたその笑みは、どこか不自然で切実だった。
「蓮稀… 」
蓮稀の名を呼ぶ雪美の声が震える。
「いいから行け!早く!!」
背中を突き飛ばすようなその声に、雪美の肩がびくりと跳ねる。
考える余地などなかった。
雪美は歯を食いしばり無我夢中で走り出す。蓮稀の言葉だけを胸に抱き、湿った石畳を蹴り、暗い廊下を抜け… 後ろを振り返ることは出来ぬまま、牢屋敷の外へと身を投げ出した。
「蓮稀、絶対後から来て… 」
雪美のことは咲夜がどれほど大切に想っているか、誰よりも知っている。
そして、蓮稀自身も…
こんな場所に閉じ込められているなど、本来あってはならぬこと、蓮稀は静かに息を吐いた。
胸の奥で、ずっと抑え込んできた思いがゆっくりと形を持ち始める。
(… 何があろうと生きろ、雪美)

