鏡と前世と夜桜の恋


「2人とも私のだって言ってるだろ!!」

甲高い声が庭に響く。

「恩を忘れたのかい!小さな頃から使用人としてあんたたち2人に世話を焼いてきたのはこの私だよ!」

唾を飛ばしながら叫ぶ。

「それなのに身分が高いだけのお嬢様が… 咲夜さんと蓮稀様から愛される?外道そのものじゃないか!!」


踏みつけるように言い放つおすず。

「外道なら外道らしく死んだらいいんだよ!!清々するよ!!」

怒声が耳を打つ、蓮稀は何も言えなかった。

言葉にすれば火に油を注ぐだけだと分かっていたが咲夜が雪美の元に辿り着く時間を少しでも稼ぐ為、濡れたまま再び額を地につけた。

「… お願いします 」

頭を下げ続けるその姿をしばし眺めていたおすずは突然、鼻で笑った。

「…しつこい男だね」

声の調子が急に変わる。

「そんなに返してほしいのかい?」

ゆっくり近付き囁くように言った。

「私について来るなら… 鈴香が着ていた着物や身に付けていた物くらいは返してあげても良いけどねえ?」

その言葉に蓮稀は薄々悟った。

この女はなにも返す気などない。
これは餌だろう、だが。

時間を稼げるのなら
今は、それでいい。

蓮稀は疑う素振りも見せず、ゆっくりと顔を上げ、濡れた前髪の奥で目だけが静かに光る。

「…お願いします」

声は低く震えもない。

「鈴香を… 返してください」

「アンタの態度次第で仕方ないねえ」

そう言って蓮稀は立ち上がり拒むことも抗うこともせずそのままおすずの後を追った。

庭に残ったのは、踏み荒らされた花と嫌な静けさだけだった。