鏡と前世と夜桜の恋


殺すと脅し、逆らえば何をされるかわからぬ状況で、無理やり従わされただけだ。誰がお前など望むか。

だがその言葉は喉の奥に押し殺した。ここで逆らえば、何が起こるかわからない。

それよりも

咲夜はおすずの異常な怒り方に背筋が冷えた。この執着この狂気… 完全に狂ってる。

(…ゆき)


胸が騒つく…

「……。」

蓮稀も同じことを感じ取っていた。
一歩下がり低い声で咲夜に言う。

「…雪美を1人にしてしまっている」

それだけで十分だった。

短く告げ2人は踵を返す。背後でおすずの甲高い笑い声が、いつまでも追いかけてきた… 不吉な予感を振り払うことが出来ないまま。

咲夜は胸の奥に募る不安を抑えきれなかった。

あの怒り方… あの執着… 雪美を1人で待たせていると思った瞬間、足は自然と屋敷の外へ向いていた。

「… 先に戻る」

それだけ告げ咲夜は振り返らずに去っていく。蓮稀はその背を一瞬だけ見送り、再び深く頭を下げた。

" とにかく時間を稼がないと "


「お願いします… 鈴香を返してください」

地に額を押し付け土に触れる。一度、二度ではなく何度も、何度も…

そして

ばしゃりと冷たい水が頭から降りかかった。

「……っ」

おすずが手にしていた水を容赦なくぶち撒けていた。

「鈴… 」

思わず漏れた名におすずは目を吊り上げる。