-- その日の夜。

屋敷はすでに寝静まり遠くで虫の音だけが規則正しく響いていた。縁側に腰を下ろす蓮稀の前に、咲夜が静かに現れる。
「…少し、いいか」
低く抑えた声だった。雪美との関係に後ろめたさがありながらも蓮稀は頷き、行灯の火を背に咲夜を見る。
「おすずのことだ」
咲夜は辺りを一度見回し声を更に落とす。
「おすずのあの笑みは、絶対何か企んでいる… 」
蓮稀の表情が変わらないまま耳だけが向けられる。
「蓮稀、お前の行動を見て楽しんでいたんだ」
夜風が行灯の火を揺らす。
影が二人の足元で歪んだ。
「証はない。だが念の為用心して欲しい」
蓮稀は短く息を吐いた。
「…それは俺も感じていた」
咲夜は目を細める。
「宴を畳んだ後、あれは不満でも安堵でもない顔をしていた “ 思惑通り ” そんな色だったからな」
月明かりが蓮稀の横顔を冷たく照らす。
「表立って動けばこちらが悪者になる。おすずはその手の間合いをよく知っている」
咲夜は頷いた。
「… 咲夜、明日一緒におすずの屋敷に行かないか?」
蓮稀は立ち上がり闇の庭へ視線を向けた。
「一緒に?」
「お前は雪美とも向き合うべきだ。…俺も咲夜も結納の歳を超えた、意味なくおすずの相手をする必要もない」
言葉は最後まで口にされなかった。
が、2人には十分だった。

