蓮稀の声は低く穏やかで、政条家の長としての重みがにじんでいた。
「雪美殿が先ほどより体調を崩されておられる。顔色も優れず、このまま宴を続けるのは忍びない」
視線を雪美へ一瞬だけ向けすぐに男達へ戻す。私情を挟まずあくまで当主の判断として、蓮稀は人の前に立った。
「誠に勝手ながら本日の席はここまでとさせていただきたい。皆様には改めて日を設ける所存だ」
柔らかな物言いでありながら拒む余地はない。
「どうか本日はお引取り願いたい。道中、足元には十分お気を付けくだされ」
再び静かに頭を下げ… それは “ 帰れ ” という言葉を使わぬ確かな通告だった。
政条家長男としての礼節と威厳が広間を支配する。
男達は互いに顔を見合わせ渋々口を噤み、屋敷を後にしていった。その背を見送りながら蓮稀はただ一度だけ雪美の無事を確かめるように視線を送った。
有無を言わせぬ口調
蓮稀の言葉1つで使用人達は動き男達は次々と屋敷の外へ追い出されていく…
宴は唐突に終わりを告げた。
その光景を、咲夜はただ見ていることしか出来なかった。拳を握り、唇を噛み、何も出来ない己を呪いながら。
-- だが。
おすずの鋭く目に宿る光を見た瞬間、咲夜は悟った。恐怖を煽り、孤立させ、追い込むための悪巧みの顔…
蓮稀を誰のものにもさせぬための。
おすずは恐らく蓮稀と雪美… 2人の関係を密かに疑っている。蓮稀へ向く執着心が溢れ出ていた。
2人の関係は咲夜自身も知らない
だが、おすずの様子を見て胸の奥で静かに怒りが燃え上がる… また蓮稀をボロボロにするつもりか?この役は、俺だけで十分。咲夜は決しておすずから視線を逸らさなかった。

