-- 数日後
引き続き雪美も結納の歳を本格的に迎え、そして今宵はその宴が開かれている。
屋敷の広間には香の匂いと酒気が満ち、色柄の良い羽織を纏った男達は獲物を見る目で雪美を囲んでいた。
その輪の外、柱にもたれた咲夜は歯を噛みしめ、なにも出来ずにいた。
" 俺のゆきなのに… "
胸の奥で叫んでも声にはならない。おすずの目がり監視もある、近付くことすら許されない。
男たちの笑い声が重なり、距離が詰まるたび、雪美の脳裏にあの時の恐怖が蘇る。息が浅くなり視界が滲む… 顔から血の気が引き足元が揺れた。
その瞬間だった。
「… 失礼」
咄嗟に前へ出たのは蓮稀だった。
雪美の前に立ち、庇うように腕を伸ばす。外界から遮断するように静かに、しかし確かな動きで。
「… 大丈夫か?」
耳元に落とされた声は必要以上に甘くわざとらしい。囁きに肩が跳ね、雪美の胸が大きく鳴る。その反応を面白がったのか、蓮稀は更に口元を寄せ小声で呟いた。
「顔色が悪い」
甘言。恐怖と戸惑いと抗えぬ鼓動が絡まり、雪美は身動きが取れなくなる… その一部始終をおすずが見逃すはずがなかった。
「… ふぅん」
低く粘ついた声が広間を切る。
「蓮稀様… そういうことかい。もうお壊れになったのかと思いきや、まだそんな顔が出来るなんてねえ」
鋭い視線が蓮稀に突き刺さり、続けざまに冷ややかな呟きが響いた。咲夜はそれを聞いた。
政条家長男として、蓮稀は一歩前へ出た。広間のざわめきがふっと静まる。
「皆様、本日はお集まりいただき誠にかたじけない」
深く、しかし品を失わぬ所作で頭を下げる。

