部屋に戻ってきた蓮稀の気配に雪美は浅い眠りから目を覚ました。障子越しの灯りが揺れ、足音が止まる。
「起こしたか」
低い声に雪美は首を横に振る。
「… 今日はここに泊まる事になりそうだ。悪いが父上の着物を借りられないか?」
そう言うと、蓮稀は迷いなく帯に手をかけ着物を脱ごうとした。
「ちょ、ちょっと…// 」
「何を赤くなっておる、この前の件で、俺の身体に見惚れたか?」
からかうような声音に雪美は即座に言い返す。
「んな訳、あるわけないでしょ!//」
慌てて背を向け目を逸らす。
… はず、だった。
一瞬、ほんの一瞬だけ。視界の端に映った蓮稀の身体に心臓が跳ねた。
無駄のない筋肉、はっきりと割れた腹筋。雄としての強さをそのまま形にしたような身体に思わず息を呑むと、同時に…
「…え…」
腹筋の上、胸元、脇腹、そこかしこに残る無数の古傷。そして刃物の跡、打ち身の名残、治りきらず白く残った傷痕。
な、なんでこんなに…
胸の奥がきゅっと締めつけられ理由もなく痛みが込み上げ気付けば、雪美は振り向き無意識のまま蓮稀に近付き指先を伸ばしていた。
「……。」
指がそっと傷痕に触れる。
「は、雪美!?」
触れた瞬間、指先に伝わる確かな現実… これは飾りでも噂でもない。蓮稀が生き、耐えて来た時間そのもの。
「…痛かった、でしょう」
雪美の声は震えていた。
蓮稀は言葉を失い、暫く黙ったまま雪美を見下ろし… やがて苦笑にも似た息を吐いた。
「…今更」
そう言いながらも、触れられた場所を振り払うことはせずに雪美の体を包み込むように優しく抱き締めた。

