蓮稀は一歩距離を取る。胸の高鳴りを鎮めるように、深く息を吐いた。
… 本当に、危なっかしい。
そう思いながら、今度こそ音を立てずに部屋を後にしようとした瞬間、微かだが妙な音が聞こえた。
夜気は冷え足音だけがやけに響く… ふと、その視界の端に “ 気配 ” が引っかかった。
-- 人影?
歩みを止め息を殺し闇の奥に確かに何かがいる。
胸の奥が冷たくなる… 俺の行動を最初から見られていた?雪美を送ったことも屋敷に入ったことも…
-- 間者か?
蓮稀は足を止め、わざと何気ない風を装った。夜の庭は静まり返り虫の音さえ遠い。だが確かにいる。視線の重さだけが背に貼り付いていた。
(…素人じゃないな)
確信に近いものがあった。蓮稀はゆっくりと身を屈め、庭先に転がる小石を1つ拾う。指先で転がしながらため息を吐いた。
「…気のせい、か?」
独り言のように呟き次の瞬間、何の前触れもなく小石を闇へ投げた。
乾いた音。
同時に、草を踏みしめる気配が跳ねる。
黒い影が身を翻し、塀の向こうへ逃げていく。隠す気もなくただ命じられた通り見ていただけの動きだった。
「やっぱりな」
蓮稀は舌打ちし夜の向こうを睨む、誰の差し金か答えは考えるまでもない。
「おすず…」
名を呼ぶ声には感情が削ぎ落とされ、怒りよりも先に来たのは " 嫌悪 " だった。
雪美を送るだけでここまで見張りを付ける。その執念深さが胸の奥をざらつかせる。蓮稀は小さく息を吐いた。
胸の奥で怒りがじわりと広がる… やり方が陰湿すぎる、場合によってはまた雪美に危害を加えるつもりだったのか?ふざけやがって。
申又のことがある、蓮稀は不安になり部屋に戻ることにした。

