「うるさい!静かにしなさい!」



一人絶叫しパニックを起こす陽菜を見て、険しい表情を見せながらも何も話さない父上の横で、大きな怒鳴り声をあげた蓮稀と咲夜の母上だった。



「咲夜さんのお母様… おかしいわ、私はゆきさんより咲夜さんを愛しているわ!!!」



雪美の事を貶しながら " 私の方が上 " だと、自慢気に威張り、母上にアピールし始める陽菜。



「… 黙りなさい!!ゆきちゃんの愛を蔑んだら許さないわよ!!!」



普段、穏やかに話す姿しか見せない母上が珍しく激怒… 驚きながらと咲夜は " ありがとう " と、心の中で呟いた。



母上の怒鳴り声に静まり返る室内…



座布団の上で丸まり、耳をピクピクと耳を動かし、昼寝している飼い猫『ぶぶ』の欠伸をする鳴き声だけが響き渡る中… 沈黙を破ったのは咲夜だった。



「ゆきの事を身請けしたい、金を用意して欲しい」



頭を下げて頼み込む咲夜の姿を見た母上は優しく微笑み何も言わず貯めていた金を咲夜に差し出した。



「咲夜さん後悔しないように… 覚えときな」



一部始終を黙って見ていたおすずは、悔しそうに捨て台詞を吐き、陽菜を連れて政条家を出て行く。



「… いつも迷惑かけてすまぬ」



「ゆきちゃんの事大切にするのよ… 蓮稀が出来なかった事を貴方はするの!!!」



母上の言葉を聞き、蓮稀の事を思い出した咲夜は家を後にし汽車に乗り込むと、京にある蓮稀と鈴香… 二人が埋葬されている寺に一人で足を向かわせる。