鏡と前世と夜桜の恋


少し迷った末、柔らかな香りと控えめな部屋に行き当たった。飾り気は少ないがどこか雪美らしい。

「ここか?」

蓮稀は静かに襖を閉め奥の寝台へ向かう。

そのまま雪美の体をそっと横たえた。乱暴にならないよう細心の注意を払って寝かせた。雪美は小さく身じろぎしすぐに安らかな寝息を立て始める。


蓮稀は暫くその寝顔を見下ろしていた。

「無防備過ぎるな、これは… 」

それだけを呟き掛け布を整え、気持ちよさそうに眠る雪美を前に蓮稀は思わず息を呑んだ。

長い睫毛、穏やかな寝息、微かに上がる胸元… ただそれだけで、妙に色っぽく見えてしまう自分に驚く。


" 俺は何を考えている… "

理性が遅れて追いつき伸びかけた手を慌てて引き戻す。蓮稀は慌てて立ち上がり踵を返した。

その瞬間

「…ここ、私の部屋じゃないよ?」

掠れた声が背中に落ちる。

起きたのか… 振り返ると雪美は酔いの名残を帯び、潤んだ瞳でトロンとした表情のままこちらを見ていた。


心臓がどくんと跳ねた。

「ど、どういう…」

「たぶん… ここ、お母さんの部屋…」

雪美は小さく笑う。その仕草一つで胸の奥がざわつくのを蓮稀は必死に押さえた。

「…悪い、間違えた」

短くそう言ってこれ以上何か考える前に、蓮稀は雪美を再び姫抱きで抱き上げる。


「こっち… 廊下突き当たりの…右」

雪美は指先で曖昧に方向を示す。その声が近すぎて蓮稀は無意識に息を整えた。

言われた通りの部屋に辿り着き、今度は間違いなく雪美の部屋だと分かる空気があった。蓮稀は静かに雪美を寝台へ下ろす。

「…ありがとう」

雪美はそう呟くとすぐに再び目を閉じた。